「小さくても存在感のあるモデルさん」として、たくさんの面白い形の切り株をみつけました。その中でもやや大きめのものを20号で描いています。この画面の大きさは巨木を描くには迫力が出ないので、実物大に近い大きさで描けるちょうど良いモデルさんです。周りに花や草を配置して仕上げることにしました。そこで、スケッチと写真をもとに下描きを始めましたが、とにかく形も色も複雑です。立体感や面白いカーブの曲面がうまく表現できる気がしません。風雨にさらされて来た色も微妙すぎて明暗も良くわからないので、撮って来た写真を白黒コピーしてみました。(色がなくなると明暗は良くわかります。)この時にふと、西洋美術史の授業で聞いた「グリザイユ」という言葉が浮かびました。
「グリザイユ技法」というのは西洋絵画(油絵)の古典技法です。私は学生時代にしか油彩経験のない素人ですから、使ったことなどありません。でも、もしかすると透明水彩でもいけるんじゃないかと検索してみました。必要な情報がすぐに入るインターネットは本当にありがたいです。デジタル絵画の「グリザイユ画法」というものがたくさん出て来ますが、水彩絵の具のグリザイユ技法を投稿したものもたくさんみつかりました。この切り株の立体感を出すにはこの方法が最適だと思うので使ってみます。最初は陰影だけを描いて立体感をしっかりつかみ、その上に色をのせていく2段階の描き方です。
初挑戦のグリザイユ技法もどき
①暗い青紫だけで陰影を丁寧に描きました。色は無視です。立体感を出すことを意識して暗い部分を塗り重ねていきました。光の当たっている白いところは塗り残しています。石膏像のデッサンを思い出しました。
②赤茶や緑など、いろいろな色を重ねていきます。先に置いた青紫がにじんで来ないよう、手早くさらさらと塗りました。複雑な良い色ができている気がします。
③それでも上に色をのせると①の時ほど立体感は感じないので、明るい部分の色を抜いたり、暗い部分は更に暗い色を重ねて形をしっかりさせていきます。向かって左側はそれを終えたところ、右側はまだ②の状態です。
感想と注意点
①風雨にさらされて来た複雑な色合いを表現したいと思いましたが、それにとらわれてしまうと立体感がうまくつかめない気がしました。色を気にせずに先に立体の形を正確につかむというこの方法は失敗が少ないと思います。重ねた時にできる色も深みのある色になりました。最初に陰影を描き込んでいく色は青紫でなくても、黒に近い暗い色なら大丈夫です。
②陰影とか明暗を描くと言っても、対象となる風景や静物には色がついているわけですし、デッサンに慣れていないと難しいかも知れません。「陰影」を生徒に説明する時にもわかりにくかったので、私はよく写真をコピーして色を飛ばして見せていました。
③もともとは油彩の技法ですから、透明水彩で使う時に最も注意しなければいけないのは、先に描いた陰影の色が動いてしまうことです。色の定着の良いコットン系の水彩画紙を使う方法もありますが外国産の高価なものが多いです。私は後から色を抜くのが好きなので、国産の紙と格闘、手早くさらさら塗りを心がけました。
④巨木、古木のがっしりどっしり感を描くのは難しいです。なかなか形をつかめないので、透明水彩では描き直しを繰り返すうちにボロボロになっていました。陰影と色彩を2段階で描くという方法は手間がかかるように思えますが、迷うことややり直しがない分、短い時間で仕上がっていきます。
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