油絵、水彩画、日本画、色鉛筆やパステル、アクリル絵の具・・。どの画材も本格的に学ぼうと思えばとても奥が深く、実際に色をつける絵の具の他にも必要な画材はたくさんあります。それらを使ってどう描いていくのか、本やネットで調べてすぐに理解し、できることではなく、きちんと先生について直接教えてもらうのが一番です。でも、その前に自分はどんな感じの絵が描きたいのか、自分の毎日の生活の中でどんな時に絵を描きたいのか、そのイメージをしっかり持ちましょう。そこがあやふやだったり、よく考えないで始めてしまうと、楽しく学べないばかりか途中で行き詰まることもあります。自分が描きたいものに適している絵の具、自分の生活の中に無理なく取り入れられる絵画制作、それをみつけるための参考にしてもらえればと思い、彩色するための画材(絵の具や色鉛筆など)の特長と知っておいてほしいことを書いていきます。
絵の具の特長
大変大雑把な図と幼稚な言葉で、きちんとした知識のある方にはお叱りを受けそうですが、中学生に説明するにはこの図がわかりやすかったので使わせていただきます。
色をつけていく画材の作りはどれも上の図のようになっていますが、何でつないでいるか、色のつぶがどれくらい入っているかによってそれぞれの特長が出てきます。つないでいるものが水溶性であれば水でうすめることができますし、油性であれば油や他の溶剤を使うことになります。また、色のつぶが多ければ下の色を隠してくれますし、つぶが少なければ重ねることによって新しい色が生まれます。その特長を「描きたい絵」や「家の中での絵画制作」に結びつけてみましょう。
水でうすめるものと油や他の液体でうすめるもの
水でうすめるものは手軽です。使った道具や場所の後始末も簡単です。絵の具のにおいもほとんどありません。それに比べて、油性のものはどうしてもにおいや後始末の煩雑さはついて回ります。うすめるオイルも必要に応じて数種類購入する必要があり、他にも必要な道具が出てきます。
しかし、「手軽に描ける。」と「思ったとおりに描ける。」は違います。自分のイメージどおりに水をあやつるのは意外と難しいもので、乾き具合によっても予想外のものになってしまいます。絵の具そのものに質感があり、乾燥が遅いために落ち着いて描ける油絵の具の方が描きあげた作品に早い段階で達成感(満足感)を得られる方が多いのではないでしょうか。
水でうすめるものの例外として、日本画(岩絵の具)があります。顔料(つぶ)に膠(つなぐもの)を混ぜて絵の具を作る煩雑さがあります。その分、描いた画面の素晴らしい質感が生まれます。
乾いてから落ちるものと落ちないもの
描いた部分の色が良いかどうかは画面全体で見ないとわからないので、描き進めているうちに「描きすぎた。濃すぎた。まちがえた。」ということは良くあります。乾いても落ちるものはもう一度水で落とせば良いし、落ちないものは塗り重ねていくことになります。下描きしたものを塗り分けたら完成という絵画はほとんどないので、これは普通の制作行程です。
ただ、水彩絵の具の制作を多く見ていると、慣れないうちは「乾いても落ちる。」という特長がマイナスに働くことが多いようです。水で落としたとしても完全な白が戻るわけではなく、かえって塗り重ねた時に下の色を溶かして混ざり合い、色が濁ってしまうという難点があります。乾いた時に落ちない絵の具は塗り重ねもやり直しも楽です。
下の色をかくすもの(不透明)と見えるもの(透明)
不透明なものはガッシュと呼ばれます。アラビアゴムがつなぎの水彩絵の具にもアクリル樹脂がつなぎのアクリル絵の具にも透明と不透明のタイプがあります。透明な絵の具の場合は、下の色が見えるのでどの色を先に描くかということが重要になります。ガッシュ(不透明)の場合は、あまり気にしなくても大丈夫です。
私が普段使っている透明水彩絵の具とアクリルガッシュで同じ場所を描いてみました。
描いていく順番が極端に違います。
[透明水彩絵の具]
しっかりと下描きをし、先に明るい色から描き始めます。木や水車小屋の屋根部分を見るとわかりやすいのですが、明るい色の上に陰の暗めの色を後から描き込んでいきます。
[アクリルガッシュ]
下の色をかくしますし、乾いていればにじんで来ることもありません。奥にある暗い葉を先に描いて後から光の当たった明るい葉を描くことができます。背景を描いてから小屋を描き、更にその上に水車を描きました。最後に柵は「いらない。」と思ったのでやめました。
どちらが簡単かと言えば、もちろん奥にあるもの、後ろにあるものを先に描き、手前に見えるものを後から描く方が簡単です。でも、下の色をかくすということは後から置いた色がそのまま出るわけで、深みのない硬い絵になってしまいました。きちんと作品に仕上げるには、また別の工夫が必要になります。透明水彩の方は下の色と重なった時に新しい色が生まれます。全体の色もまとめやすく、雰囲気も出しやすい。ただ、明るい所を残しながら描いていくというという作業はなかなか難しいものです。
2枚の感じを見比べて、どうでしょう。同じ絵でも、「こちらの方が好き!」という感覚は必ずあると思います。この2種類の絵の具の場合、重なり合った色調の美しさや絵の雰囲気を求めるなら透明水彩の方が勝るし、リアルさを求めるならアクリルガッシュの方が適しているということになります。どんな絵の具を使うかによって絵の感じも描き方も全く違ってしまうので、その人に合った「入り口」が大切だと思うのです。
絵の具いろいろ
油絵の具
歴史も長く、最もいろいろな表現ができます。基本的な描き方としては塗り重ねていくわけですが、下の色の効果もしっかり出しながら、リアルな表現も可能です。失敗しても描き直すことができ、絵の具そのものの重厚感もすばらしいので、見応えのある作品ができます。難点は、においが強いこと、乾きにくいこと、道具の後始末も簡単とは言えず、制作場所の確保や家族の理解が必要です。私自身は育児、家事に追われながらの中学校勤務と「油絵はこんなに臭うのか。」という夫の一言で、30年以上も使っていない絵の具箱がどこにあるのかさえ、今では思い出せません。
透明水彩絵の具
小学校から使っているものですが、学童用ではなく、色のつぶ(顔料)が少ない透明水彩絵の具が使われます。紙の白を生かした発色が鮮やかです。パレットに全部を出して固めて使うのが一般的で、最初から固形のものもあります。屋外や旅先でのスケッチなどにも使いやすい手軽さです。難点はやはり、光や明るいところを塗り残していくという手順の難しさでしょうか。また、思った色を出すための水の加減やぼかし、にじみなどの技法を使うことも、かなりの熟練が必要です。
不透明水彩絵の具(ガッシュ)は下の色がかくれますが、溶けて混ざることもあります。
顔彩
絵手紙などに使われる固形の絵の具です。透明水彩と同じように使えます。落ち着いた和の色です。あまり大きな画面には向きません。
岩絵の具(日本画)
申し訳ありませんが、私に経験がありません。学生の時、この講座を取り損ねてしまったので。膠を混ぜて絵の具から作るという作業がどれくらい煩雑なのか、経験のないことはうかつに書けませんが、水性なのでにおうことはありません。でも、それを自分で調節もできるからこそ、あの画面の質感も出るのでしょう。
アクリル絵の具
水でうすめて描くことができ、乾きも早く、乾くと耐水性で塗り重ねも簡単、メディウム(いろいろあります。)を追加すると透明感を増したり、艶が出たり消えたり、ぶ厚く塗ることができたり・・。いろいろなことができる便利な絵の具です。しかし、パレットに残って乾いた色は使えないし、筆を固めてしまわないように注意も必要、何より絵の具そのものが筆を傷めやすいことも難点です。また、どんなものがアクリル画というのか、全くイメージがわきません。私のように、アクリルガッシュだけで描いているのに油絵っぽく見せようとしている人間もおりますし。歴史も新しく、今のところは便利な特徴をそれぞれが制作に生かしているという感じでしょうか。ただ、アクリルガッシュは昨今、中・高校生の教材として多く使われているだけあり、描きやすいのは確かです。うまくいかなければ塗りつぶして描き直していけば良いので、根気よくいじっているうちにうまくできてしまったという生徒はたくさんいました。練習用としては最適かも知れません。自信をつけてから油彩に進むのも良いですね。
色鉛筆(絵の具と言って良いものか)
特別な準備もいらず、描きたいものがみつかった時にすぐに取り出して描けますし、旅先に持って行くのも便利です。普段、使い慣れている筆記用具に近いので、指先の力加減も調節しやすく、自分のイメージに近い効果が表れます。失敗も少なく、楽しく描けるのではないかと思います。大きな作品には不向きですが、その分、好きなもの、気になるものをたくさん描くことで、形をとる力や色を重ねる力も磨かれるのではないでしょうか。油性だけでなく、描いたものを水で溶かせる水彩色鉛筆もあります。また、慣れてきたら水彩絵の具やパステル等と併用も可能です。
その他
絵の具のことだけでもこんなにだらだらと長くなってしまいました。絵を描くために必要な知識はたくさんあるので、「百聞は一見にしかず」ということで、まずは次のことから始めてみたらいかがでしょう。
○自分が好きな感じ、何を描きたいのかをはっきりさせるために、展覧会などでいろいろな作品を見てみましょう。また、公民館やカルチャーセンターなどで興味のある講座があれば、見学や体験をするのも良いと思います。
○自宅でまず少し練習をして描き慣れてから習い始めるのも良いかと思います。ちょっとしたスケッチ(形をとらえる練習)は鉛筆と紙があればできます。色を塗らなければ安いものでも充分なので、毎日ひとつふたつでも描いているうちにだんだん描き慣れてきます。果物とか野菜とかコップとか花とか・・・。最初は少しくらいゆがんでいても良いですし。ただ、形をとるためのポイントは知らないより知っていた方が良いです。私はよく授業で紙コップを描かせることがありました。15分くらいで描けますが、大事なポイントは先にプリントで確認しておきました。もちろん、これ以外にもたくさんありますが、そこはスモールステップで少しずつできるようになれば良いのです。
○絵の具の練習というと少しハードルが上がります。絵の具をお孫さんやお子さんが持っているという方も多かったので、借りられるなら借りてみましょうか。小学生なら学童用の水彩絵の具、中学生ならうまくいけばターナー、またはサクラやぺんてるのアクリルガッシュを持っている子は多いはずです。特長がわかって描き方に慣れるというくらいならこれでも充分。ただ、水彩絵の具は紙によって描きやすさが全く変わります。最近は絵手紙用としてヴィフアールなどの水彩紙が大きな文房具売り場なら手に入るので、それで試してみたらどうでしょう。アクリル絵の具の使い方は持ち主に良く聞いてくださいね。筆やパレットの絵の具が取れなくなったら困ります。
○水彩絵の具が自分で描けそうなら、画面も大きくして画材も技法書などで調べながら購入していけば良いと思います。学童用から透明水彩になっただけで格段に発色が良くなります。ただし、手軽に描けても上達するのが難しいのが水彩画なので、やはりわからないことを教えてくれる場所は必要です。油絵、日本画となると揃える道具も多いし、使い方もわからないことだらけだと思うので、基礎的なことから教えてくれる場所を探した方が良いと思います。
○大きな作品を目指すのではなく、毎日の生活の中でみつけたものを描く、絵手紙とか絵日記のようなものが描きたい人もいるのではないかと思います。それこそ、自分の楽しい気持ち、描きたい気持ちが最優先なので、まずは描いてみましょう。(→絵日記)
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