他の投稿で、美術館で見た公募展の中に画材が「ミクストメディア」と書かれているものがあると書きました。(→美術館に行ってみましょう)私のミクストメディアの解釈は「自分の表現したいイメージを追求するために、複数の画材を組み合わせたもの」というくらいのものです。最近の私は、透明水彩とアクリルガッシュを併用するのが当たり前のようになっていますが、それも「ミクストメディア」と呼んで良いものかどうか・・。両方とも広い意味では水彩絵の具、更には使い分けがわからないよう極力自然になじませていますから・・。
本泉寺の巨木にチャレンジ
迫力ある巨木が立ち並んでいるけれど、木の背景には木しか見えない本泉寺、おまけにその木々が参道より少し高い所に立っていて、がっしりと地面に張った根っこが見えにくい本泉寺、巨木そのものを描いてまとめるしかありません。撮ってきた写真をもとに、B4サイズで練習してみます。
①透明水彩のみで仕上げましたが、私の描写力ではこれが限界です。
②明るさを目立たせたいところとより暗く見せたいところを、少しだけアクリルガッシュで描き加えました。木の形が多少ははっきりしてきました。透明水彩の上にアクリルガッシュを重ねるのは問題ありません。
①梢を高く見上げた感じ、ここまでは透明水彩で描いてきましたが、画面下方と右側はどっしりとした幹が手前に伸びている枝にかくされて、ほとんど見えません。
②梢が遠くに明るく抜けて見えるよう、近いところの木の幹や葉の重なりはもっと濃くしっかりと描きたいので、アクリルガッシュも使い始めました。違う種類の絵の具なので、色味を合わせるのに、結構気を遣います。アクリルガッシュで描く葉は、奥の暗い葉から描き、明るい色の葉を乗せていきます。
③アクリルガッシュのはっきりした明るさ暗さが画面の中に出てくると、透明水彩の色も少し強めることができます。アクリルガッシュの部分は塗り重ねながら、透明水彩の部分も色を取ったり多少描き加えたりしながらまとめました。
中学校で教えた経験から
「ミクストメディア」という言葉など全く頭に浮かばないまま、「作品の中に複数の画材(素材)を使って良いよ。」という授業を私はやっていました。自分の表現したいものを形にするために材料を選ばせることが大切な学習だという意識が私の中にあったからです。いろいろな材料を体験して、自分の感性に合った得意なものもみつけて、卒業後も何か気に入った画材のひとつくらいは手元に置いて、時々「絵でも描いてみようかな。」と思ってくれるようになれば、授業としては目標達成だと思っていました。今、学校現場から離れて、いろいろな場所で作品を作っている方達に会い、その考え方もまちがいではないように思えます。
話が生徒達に戻ります。いきなり「何で描いても良いよ。」と言ったら準備も後始末も大変なことになりますし、描けない生徒も出て来ます。ましてや、評価も出さなければいけないのですから、そんな乱暴なことはしません。1、2年生のうちは小さな作品を中心に、いろいろな画材(材料)を体験したり、アイディアを出す練習や抽象的なイメージと色や形、表現素材とのつなげ方など、基本として知っていた方が良いと思われることは、かなり丁寧に扱いました。きちんと学習を積み重ねた生徒は、2年の秋頃にはいろいろな画材についての知識も技術も身についていたと思います。
それからは自由度が一気に加速します。「テーマ」をしっかり決めて、時間をかけて制作する応用題材です。小学校から使用している水彩絵の具に色鉛筆やクレヨン、ペンなど個人持ちの画材に加え、透明水彩絵の具やアクリルガッシュ、アクリルカラーなども共用で用意しておきました。「水彩絵の具」に種類があるなんて、最初はびっくりしていた生徒が多かったのですが、さすがに中学生の頭は柔軟です。参考作品や資料で特徴をつかみ、うまく取り入れていました。保守的な私の頭では思いつかないような面白い使い方をする生徒もいて、それをちゃっかり私は自分の財産にしていきます。(工作指導をしては、そこでまた新しいアイディアをもらうのは今も変わらずです。)それぞれが、よく考え、工夫した作品はとても優劣をつけがたいものでした。
そんな自由に制作する授業の中で、私は何をやっていたのかというと、完成までの制作手順、計画表のチェックです。限られた授業時間の中で効率良く制作を進めていくためには、画材の特徴を理解していなければなりません。「アクリル絵の具より、水彩絵の具が先」だとか、ガッシュで塗りつぶすと下絵が見えなくなるから、トレーシングペーパーに写しておいて、後から上に転写して描いていく。」とか、いろいろ作戦を授けておいて、制作に入ったら後はほったらかしでも進んでいきました。描いたものがイメージどおりでない生徒には、また一緒に方法を考える・・。私も一緒にいろいろなことを吸収できた懐かしい思い出です。
「手段は選ばず、納得のいく作品を作ろう。」と言ってきましたが、これって「ミクストメディア」と呼んでいいのでしょうか?
考えたり、工夫する楽しさ
画材だけでなく、いろいろなものが簡単に手に入るようになりました。使い方も別に決まったものがあるわけではありません。ちょっとした工夫や組み合わせで面白いものや綺麗なもの、自分のイメージにしっくりくるようなものができあがるなら、それはとても楽しい作業です。とは言え、保守的な私はかなりチャレンジしているつもりでも、毎回「変わり映えのしない作品」ができあがってしまうのですが。他の人の作品を見に行ったり、工作作りで出会うアイディア豊富な方達の刺激をうけながら、少しでも頭を柔軟にしていきたいと思っています。
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