市展出品用のF20号の作品を、それなりに苦労したつもりで描き終えたのですが、家族の反応は冷たいです。「今までと、どこが変わったの?」「何を挑戦しているの?」という感じ。自分でもそんな気になってきました。大きな木が立っている、その場所の雰囲気だけは何とか表現できるようになってきたと思うのですが、「描きたいと思っている違う感じ」があるのです。
5年程前に描いた賀恵渕の椎の木(君津市)です。この木の幹は大きく傾き、枝が地面を這うように広がっていきます。立っている場所はそれほど広くはないので、太い枝が何本も切り落とされています。すぐそばに石碑が建っていて、そのすぐ後ろで切り落とされている枝もありました。石碑を建てる時に切られたのでしょう。一緒にいた父が石碑の裏に刻まれた日付を読んで「わしが生まれる前だなあ。」と一言。90年の歳月は木と人間では全く別の流れ方をしているようです。大江健三郎さんが書いた唯一のファンタジー小説「二百年の子供」では千年スダジイのうろの中が時空の旅にでかけるタイムマシンになっていますが、時の流れを感じさせる独特の空気を、多くの人が古い大きな木に感じているのではないでしょうか。
その「独特の空気」を絵の中に表現できないのかという話です。それが全然わかりません。どこか、他の空間につながる感じになるかなと線を入れてみました。今ひとつの感じでした。見えるものではないので、どう描いたら良いのか全くわからないままですが、自分にしっくりくる感じを目指して、小さな画面でいろいろ試してみたいと思います。
○1枚目
透明水彩のぼかしやにじみを使ったきれいな色の世界、これを作品の中に入れてみたらどうでしょう。「SFアニメのタイムトラベル移動中」という感じに見えてしまいそうですが・・。どうせ「何を描いても同じになる。」と言われるのだから、何も考えずに色をにじませてみて、偶然にできた画面から発想して何か描いてみようと思いました。ところが、画面全体に水を引いたら紙がゆがんできました。紙が薄いからです。
話が飛びますが、私はホワイトワトソンという水彩紙を10メートルのロールで買い、それを切り取って使っています。昨年の夏、新しいロールをネットで購入しようと探していた時に目当ての厚さの紙(300g)がみつからず、「どうせ、水張り(→作品の整理整頓)して描くんだから大丈夫。」と薄い紙(190g)のロールを買ってしまいました。今までの描き方なら問題なかったのですが、水をたっぷり使うと全く大丈夫ではありません。水彩画を描くなら一番大事なのは紙を選ぶこと。最初から間違えました。
紙がゆがんでしまい、画面に落とした色が思った通りには広がってくれません。その上に何を描いて良いかもわかりません。仕方がないのでフリーハンドで線を入れてみましたが、それも思ったとおりの線になりません。何とかバランスを取ろうと、どんどん線が増えてぐちゃぐちゃになりました。「練習だ!」と思い、その上に葉っぱを描いてみました。同系色ではつまらないと思い、葉の色を変えてもみたら捕色(黄緑と紫)を重ねてしまい、更に汚くなりました。もうギブアップ。
○2枚目
考えながら慎重に、無駄な線は描かないと決め、線の方向は多少そろえました。下に風景を描こうと地平線を入れてみました。が、背景にあるにじみがとても強烈で、その上にどんな風景を描いたら良いものかと迷ってしまい、ここで放り出しました。
○3枚目
偶然できたにじみから発想するという離れ業は、ひらめきの乏しい私には無理だと諦めてやはり木を先に描くことにしました。また、気分を変えて画面は正方形にしてみました。幹や下の方の枝はしっかり描きましたが、だんだん消えていく感じにしてみようかと梢の方はぼかします。いろんな時代に生きていたというイメージで、その上に線や色を重ねてみたら、せせこましい。無計画に画面の形なんて変えるものではありません。ここでやめました。
○4枚目
画面の形を変えて描き直しました。長い時間(いろいろな時代)の重なりは、とりあえず線を重ねてみますが、向きは変えたので画面の中にはおさまった気がします。違う色も重ねていこうと思いましたが、思いつかないので中断。
○5枚目
木を変えてみました。上植野(勝浦市)にある「千年の椎の木」です。中心を決め、円を描くように筆を動かしてぼかしてみました。できた模様に合わせて線を入れてみます。地平線がいくつもあるような感じに見えて来ました。木を描き、地面の面積が広くなってしまったので遠近感を出しながら草を描いているうちに、生き物を入れたくなりました。「千年の椎の木」の対極にあるものとして小さなテントウムシが浮かびましたが、細かすぎてうまく描けませんでした。それでも、こんな思いつきが出ただけでも進歩です。
途中でわからなくなってはギブアップのくり返しなのですが、頭の中だけでは全く思いつかないので、作業をしながら「ダメなこと」「できないこと」「難しいこと」を体験している感じです。今後もいろいろ試します。
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